今日のトイレ本

作者/山田風太郎

この本は昭和20年の東京、つまり「戦争が日常」の医学生
日記である。
毎日の空襲、いつ頭上に焼夷弾が落ちてもおかしくない状況
にあっても、人々は満員電車に乗って会社、学校に行き、
銭湯に行き(自宅に風呂があっても水道規制(言うまでも無く
空襲消火のため)で使えない)、散髪をする。
山田青年(当時20歳)は日本の敗北を確信しながらも、徹底
抗戦、一億玉砕を願う。
彼は決して狂信的な国粋主義者ではない。むしろ「科学性」
を軽視し精神論を振りかざす軍国主義に大いに異を唱える
知的読書人であるのだが、敗戦後に日本を襲うであろう国体の
消失を憂い、他に道なしと思う、思わざるを得ないのである。

そして彼が終戦後に見たものは?

前回紹介した「五分後の世界」シリーズは、まさに山田青年
が願ったとおりのシナリオで21世紀を迎える日本の話であると
いうのも興味深い。

最近では「バジリスク」の原作「甲賀忍法帖」の作者として、
密かに注目を集めている故山田氏、「忍法帖」の荒唐無稽さ
(二人を斬首し、その首と胴を入れ替えるなんて朝飯前)の
背景には、かくも陰惨な「日常」があったことを、ぜひ
バジリスクファンに知ってもらいたい。

もちろん、バジリスクのファンで無い人にも知ってもらいたい。