横山光輝氏の死を悼む

イラクの日本人質3人の開放に国中が喜びの声を上げる中(もちろん私も大い
に安堵した一人である、念のため)偉大な漫画家が亡くなった。
横山光輝氏、小学校の頃、チャンピオンで毎号熱中して読んだ「マーズ」
は、自分の人格形成に(多分)少なからぬ影響を与えた。
遡ってバビル二世も全巻集めたし、自由帳はガイアーとポセイドン(両作品
に登場するロボットの名前)の絵ばかり、多分今でもソラで書けるかもしれ
ない。
両作品に共通するのは、「正義の味方」である主人公が、妙に淡々としている
ことだ。「マーズ」は設定がアレ(ネタバラシになるので)なので納得できる
が、バビル2世のあの落ち着きというか(クールというのではない)とにかく
どんな危機的な状況でも、決戦の舞台でも、テンションが常に一定なのは、
今にして思えば、不思議なくらいであった。
まあ、横山氏の絵柄がかなり「アッサリ」していた影響も大きいが、
はっきり言って、主人公キャラの魅力の乏しいマンガだったのではなかろ
うか。
(バビル2世では、悪の権化として、挑んでも挑んでも、毎回「あと一歩」で
力尽きる敵ボス「ヨミ」のほうが、余程人間くさく、また魅力的だったり
する)
それでも私があれだけ熱狂したのは、ひたすらストーリーが面白かったから
だろうと思う。

逆の例を出せば「リングにかけろ」では、恐ろしいほどストーリーは空虚だ。
ボクシングものでありながら、キャラたちはリング上で「舌戦」を繰り広げ
(といっても「ダセエぜ」とか非常に限られたボキャブラリではあるが)
一発の見開きパンチで勝負は決まる。
にも拘らず、キャラの魅力(熱血主人公、天才、クールガイ、超美形、
チビと、現代の集団アクションのフォーマットを築いた)が立っており、
見開き多用による圧倒的な迫力とカタルシスで読者は(少なくとも私は)
グイグイ作品に引き寄せられてしまったのである。

話が逸れてしまったが、とにかく、マーズのあのラストには、本当に衝撃を
受けた。ノストラダムスの大予言と同じくらいに・・・。

そういえば、私が学生時代、中国に1年間滞在するきっかけ(のひとつ)に
なったのは、柴田連三郎の「三国志 英雄ここにあり」を読み、感動した
からだが、それを手に取ったのも、氏の「三国志」があまりに巻数が膨大
(全60巻)で、全部読む気になれず、小説(全3巻)のほうが手軽だった
から。

北京で中国語を学び、その流れで今はなき某「国際流通グループ」に就職し、
そこが倒産して、転職、今に至る・・・。

氏は自分の人格どころか、人生そのものに多大なる影響を及ぼした唯一の
漫画家、と言えるかも知れない。

謹んで、横山光輝氏のご冥福をお祈りいたします。 合掌